テニスの映像分析ツールでボール着地点・選手の位置データを記録し、西岡・ナカシマ戦を分析
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自作したテニスの映像分析ツールを使って、西岡良仁、ブランドン・ナカシマ戦を分析してみました。
今年の2月に行われた試合で、デルレイビーチ(ATP250)準決勝、3-6、7-6(5)、6-4と西岡が勝利した試合です。
怪我からの復帰以降ランキングを大きく上げている西岡に注目していたのと、1セットダウンと劣勢だった状況から逆転して勝利したという、試合の流れの変化があった試合ということで、この試合に注目し分析してみた次第です。
ボール着地点・選手の位置データを記録・可視化できるようなった
試合の分析の前に、映像分析ツールについて簡単に紹介します。
かなり前ではありますが、錦織の試合を自作の映像分析ツールで分析したことがあります。
自作したテニスのビデオ分析ツールで錦織・デルポトロ戦を分析してみました
このときはサーブの着地点を記録し、錦織とデルポトロのサーブコースの鋭さの違いを視覚化して分析に活用しました。
この後も粛々とツールの開発は進めてきまして、サーブ以外のラリー中のボール着地点や、選手の位置も記録できるようにしました。
記録には多くの時間を要しますが、一部物体検出などの深層学習AI技術を活用し、記録作業を効率化しています。こちらの記事で簡単な紹介をしていますので興味のある方はご覧になってください。
テニスの動画分析ツールにAI技術を取り入れ一部作業を自動化
データ分析のフローは下図のようになっています。映像分析ツールでデータを記録してデータベース化し、Python(Pandas+Matplotlib)でデータ加工・可視化してデータ分析に活用しました。
下はリターン打点位置をプロットした図になります。リターンを打ったタイミングで選手がどの位置にいたかを視覚化したもので、ナカシマがかなり前の位置でリターンを打っていたことを図から読み取ることができます。
そしてこちらの図は、サーブ⇒リターンの次の3球目を打つ時点での選手の位置をプロットした図となります。(上側がサーバーの位置、下側がリターナーの位置)Deuceサイドに絞ったデータでして、ナカシマの方が相手選手を外側に逃がしてオープンスペースをつくれていることがわかります。
こんな感じで、ボールや選手の位置データを記録・視覚化して試合を分析することが可能となります。
まずは各ゲームの試合経過を確認
それでは試合の分析の話を進めていきます。
まず、試合の全体の流れを把握したく、各ゲームの試合経過を確認しました。
第1セットは3-6でセットを取られていますが、第2ゲームと第4ゲームでサービスブレイクされてしまった影響が大きかったかなあと。そして第2セットは全てキープで最後のタイブレークを西岡が制し、最終セットは西岡優勢のままゲームセットとなりました。
どう試合を分析していくかですが、下記3つをお題にして、各セットWonLostの明暗をわけた要因を探っていく、という形で分析していきたいと思います。
・第1セット、西岡が序盤のサービスゲーム2回ブレイクされた理由
・第2セット、タイブレークを西岡が制した要因
・第3セット、西岡がブレイクをして試合を優勢に進められた要因
第1セット、西岡が序盤のサービスゲーム2回ブレイクされた理由
第1セットは、ナカシマにリターンから攻め込まれ、そのスピードボールに対応できず西岡がフォーストエラーやウィナーでポイントをとられたというシーンが多かった印象があります。
↓は各セット毎のリターンの打点位置となります。点線は平均位置になりますが、1stサーブに対するナカシマのリターン打点位置の平均は、
第1セット 24.4m
第2セット 24.6m
第3セット 24.7m
第1セットは第2、3セットより0.2~0.3m程度前でリターンを打っていたことがわかります。このナカシマのリターンからの攻勢にうまく対処できず、サービスブレイクを許したと考えています。
そして第2セット以降、ナカシマのリターン位置が下がった理由ですが、第2セット以降は西岡のサーブが少し深くなったことによると考えています。下図はサーブ着地点をプロットした図になります。
1stサーブの着地点の平均位置は
第1セット 16.9m
第2セット 17.0m
第3セット 17.2m
と第2、3セットはプラス0.1m~と若干ではありますが、より深い位置にサーブを打てていることがわかります。これにより第1セットのようなリターンから攻め込まれる場面が少なくなった印象です。
タイブレークを西岡が制した要因
試合の命運を分けたタイブレークの全てのポイント内容をデータベースから抽出し書き出してみました。
注目はスコア3-3の場面、ナカシマの2ndサーブを西岡がブレイクしています。このタイブレーク唯一のブレイクです。
ナカシマも1stサーブは確実にポイントをとれていましたが、この2ndサーブのLostがタイブレークの明暗を分けました。
西岡の2ndサーブに対する強さがタイブレークで表れたと考えていて、基本スタッツを確認してみても、第2セットの2ndサーブポイント率は、
ナカシマ 56%
西岡 83%
と西岡の数値が大きく上回っています。ここでいう2ndサーブは、自分の2ndサーブ、相手の2ndサーブ両方においてです。(ナカシマの2ndサーブポイント率は56%というのは西岡の2ndサーブリターンポイント率が44%ということを意味し、高いリターンポイント率となっています)
次にナカシマの2ndサーブN球目(1球目〜25球目)のポイントWonLostの数を棒グラフで確認しました。
ナカシマの2ndサーブのグラフをみてください。このグラフではLostの数=西岡のリターンWon数となります。2球目のリターンエラーによるナカシマのポイントWonは8本と多いですが3球目以降の西岡のリターンポイントWon数の方がナカシマのサーブWon数より多くなっていることがわかります。つまり、リターンを返球し、ラリー戦に持ち込めば西岡の勝機が高まることを示しており、それを西岡がタイブレークという大事な場面でも体現した、ということになります。
ちなみにタイブレーク3-3の場面でのラリー数は13本でした。
第3セット、西岡がブレイクをして試合を優勢に進められた要因
第3セットは、西岡の2ndサーブでの強さが第2セット以上に顕著に現れ2回のブレイクにつながったと思っています。基本スタッツをみても、第3セットのナカシマの2ndサーブポイント率は33%と非常に低い数値となっています。
2ndサーブとリターン戦両方が強いというのは、ラリー戦が強いことを意味しますから、ラリー時におけるショットの着地点にどんな傾向あるのかを確認してみました。下図はラリー中のボール着地点をプロットしたものです。
情報が多すぎてわかりにくいので、コートを横方向に6分割して各エリアの着地数をみてみました。
こうみると、西岡は中央エリアへの配給が多いことがわかります。パーセンテージで示している数値は3分割エリアの配給割合になっていまして、中央エリアの配給は、ナカシマ29.8%に対して西岡36.6%となっています。とかくライン際に打つことがよしとされますが、中央エリアへの配給はミスのリスクが減る、相手のショットは角度をつけにくい、などの利点もあり、西岡はそれを戦略的にやっていた可能性があります。
ナカシマも焦りがあったのかラリー数が増えると最後にミスをするという場面も多かったですし、チャンスがあれば西岡もライン際にボールを打って、ウィナーをとれていました。
あと、上で説明したリターン位置を再度みてみると、西岡の第3セットのリターン位置が第1、2セットの位置と比較し大きく前にシフトしていることがわかります。ナカシマのサーブ深さも少し浅くなっています。第3セットは少しナカシマの疲れの影響もあったかと想像できます。
まとめ
以上、各セット毎にWonLostの要因を分析していきました。西岡自身の2ndサーブ、相手の2ndサーブ両方での強さが勝利につながったと思います。1stサーブの強い選手がランキング上位を占める中、西岡は2ndサーブやラリー戦で勝負強さを発揮し、トップ選手に勝っていく非常にユニークな選手だと思います。
新型コロナの影響でしばらく試合が行われなそうですが、ATPツアー再開後の活躍に期待したいです。
分析作業についてですが、着地点などのデータ記録はかなりの工数を使いました。95%データ記録、5%データ分析ぐらいの時間配分で。ツール開発を進めてデータ記録をもっと楽にして、分析の時間増やしたり、試合数増やせるようにしたいなあと思いました。